2018年11月12日月曜日

武士の一分

 嫌われず、目立たず、穏便に、それも生き方ではある。ただ、こだわり、流されず、主張することも、必要である。議員という立場には、特にこのことが必要であり、これこそが議員としての存在の意義だとも思う。そうすることは個人的にプラスになるかマイナスになるか、という価値観とは別次元である。

 公職選挙法第89条(公務員の立侯補制限)は、職員は在職中、公職の候補者となることができない、と規定している。更に90条において届け出により候補者となったときは、届け出の日に公務員たることを辞したものとみなす、となっている。であるから正式な届け出を出すまでは、公務員であり続ける事ができる。ならば来年4月の本人が属する市の市議会議員の選挙に出ますと明示し退職届を提出した後に、選挙に際しての立候補届を正式に提出するまでは公務員で有り続けることができるのか、という事が疑問になる。そしてその間に公務員としての立場を維持しながら選挙に向けた準備・政治活動がどこまで許されるのかという疑問が生じる。

法律は法律によって実現したい社会的な利益・法の趣旨があるが、どのように法を適応すべきか判断に窮するときは、その趣旨を鑑み判断することになるのだと思う。広義もしくは狭義に解釈すべきこと、拡大解釈してもいい場合もあれば刑法のように厳格・限定的に解釈しなければならないものもある。そもそも公職選挙法における「公務員の立候補制限」や地方公務員法における「政治活動の制限」の法の趣旨は何なのだろうかと思う。

 行政とは政治を実現する場であり、そこで働くものが公務員である。公務員は政治に影響を与えまた影響を受けやすい存在であるため、政治的に中立であることが必要である。「選挙に出る」という観点から公務員という職業・立場を考えれば、住民との接点の数を始め、公務員であることは一民間人であることよりも有利であることは当然である。

 今般土木部職員が「来年4月の佐世保市市議会議員出馬のため」と明示し退職願を提出した。本人の説明によれば、提出日は10月20日過ぎ頃、12月末日を持っての退職ということであった。本来であれば「一身上の都合」を理由に退職し、しかるべき条件を整理してからの立候補宣言及び活動になると思うのだが、そうしない事の理由は何なのだろう。本人は「はっきりさせないと中途半端なのは嫌いだから」と言ったように思う。その事によりいくつかの不都合が生じると思うが、「政治的な活動はしないように」と言いつつも、2月余、「政治的な活動」は誰がどのように定義し、確認するのだろうか。公務員としてのモラルがありそういう事はしないだろうという期待は、ならば、何故に一身上の都合で退職する配慮がなされないのだろうかと言う別の疑問を生む。

  論点を整理すると、第一に「一身上の都合」で退職し、退職後に立候補表明などをすべきではなかったのか、そのような職場の考え方やアドバイスはなかったのか。第二は、本人が勤務する自治体の議員の選挙への立候補を特定明示し退職の申し出をした以上、可及的速やかに退職させ、公務との関わりを遮断すべきではないか。第三は、2月余の間、勤務時間においてなされる例えば「来年4月の市議会議員に立候補します。佐世保を良くしたいと思っています」の様なご挨拶や会話は、政治活動や選挙への準備活動の様であるが、法律との関りは誰がどう判断するのか。勤務時間中には政治・選挙準備活動は制限されるが、休日や休み時間は許されるのか、は誰がどのように判断するのか。このようなことが行われれば、一般民間人が選挙に臨むよりも極めて有利な状況が生まれるが、公正な選挙を実現するうえで問題ではないか。第四、行政は遍く公平であるべきであるが、行政が公務員の選挙への有利な環境に利用されていることにならないか。

 これらの事は直属の上司である土木部長の考えだけで決められるとは思えない。選挙管理委員会や総務部などで見解をまとめるべきではないかと思うがどうなのだろうか。

「武士の一分」と言う映画があった。たまたま先般鶴岡市に行政視察に行ったが、そこには藤沢周平記念館がある。立ち寄ることが出来なかったが、ふとこの言葉「武士の一分」が頭に浮かんだ。一分、守らなければならない名誉や、誇り、意地、そんなところだろうか。武士、今の時代なら公務員でしょうか。職業訓練が確りなされ、高学歴で倫理観や職業意識、プロ意識が強い、それが公務員に抱くイメージである。

 公務員は自分の行動にいささかも不名誉があってはならない、何よりも公務員自身がこのことを強く認識していると思う。何故ならば自分が働き、家族を養い、生きて来た歴史であるから、不名誉は自己否定である。だから先人は「一身上の都合」により退職し、環境を整理した後に政治的な行動を起こすのだと思う。この「公務員の一分」が古き良き時代の遺物の様に否定されつつあるとき、今後とも地方公務員が政治にチャレンジすることはあり得るしそれはまた決して悪い事ではなく、そのためにもこの際これらの議論を丁寧にして頂き、整理し一定のルールが認識されればよいのではないかと思うのである。

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